出航の汽笛が鳴り止んだ頃、船内では乾杯の声が上がり始めます。
気の合う仲間や恋人。長年連れ添った夫婦。 顔ぶれは本当に様々ですが、日常を離れた解放感か、それとも近づいていく楽園への期待感か。どのグループを見ても笑顔と明るい話し声で溢れています。
出発の高揚感が少しずつ薄れ始める数時間後、船は東京湾を抜け大洋に出ます。 気が付けば見渡す限りの水平線。 南洋へ向かっている実感が少しずつ沸いてきます。
そして真昼の強い日差しがゆっくりと傾き、夕陽になりはじめる頃。あれだけ大きな声が飛び交っていた船内は、徐々に落ち着きを見せ始めます。
満面の笑顔は微笑みに、笑い声は静かな話し声に変わっていきます。それに伴い話題も少しずつ変化を見せるようです。
心の奥に隠れていた素直な気持ち。 日々の忙しさに追われ、埋もれていた優しい思い。 気恥ずかしくて話せずにいた将来の夢。
そういった心情が自然と言葉を紡ぎ始めます。
25時間という船旅は、確かに移動としては長過ぎるかも知れません。しかし一見無駄に感じるその時間こそが、最も大切な時間のようにも感じます。
きっと船上で過ごしたこの時間は、父島の海上で過ごした時間と同じくらい心和む素敵な思い出になることでしょう。