旧街道と書籍 | 夢我人No. 鐙 啓記さんさん

東北地方で唯一の専門出版社である無明舎出版。秋田を中心として、東北地方に根ざした書籍づくりを続けているこの出版社に、強い情熱をもった夢我人がいます。

【北前船の調査、失われた海の道】

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出典『北前船~寄港地と交易の物語~』(無明舎出版)

これまで数多くの出版事業に携わってきた鐙さんが、最も思い入れが強いと話すのは『北前船』についての調査です。北前船とは主に江戸時代、日本海を利用して大阪から北陸・東北地方、さらには北海道まで、物資を輸送するために使われた船のこと。 鐙さんは約200ヵ所あるという北前船の寄港地のうち168ヵ所の港を実際に訪問し、取材しました。距離にすると約2万キロにもなる取材を、3回に分けて合計2ヵ月半に渡り行ったのです。

地球半周分にもなる行程を振り返り、鐙さんは話します。 「陸の街道は人を運ぶ道、川舟が通る川の道、海の道は物を運ぶ道だったのです。京都や大阪の郷土料理の中には、北海道や東北地方の食材が使われていますし、東北地方には京都を髣髴とさせる高度な文化が根付いています。

これは北前船が食や文化を運んだということを物語っているもので、かつて学校教育で『裏日本』と教えられていた日本海側が、実は『表日本』であったことも示しています北前船の寄港地は、ただの寄港地ではありません。寄港地には船乗りから新しい品や情報を得るために人が集まるため、船乗り相手の商売が多く成り立ち、やがて街を繁栄させることになりました。

つまり都と東北それぞれの文化や製品を伝えることによって、物流、ひいては資本の流れを生み、ひとつの経済の仕組みを創りあげたのです。そのように北前船は中・近世において重要な役割を果たしたにも関わらず、学校で使用されている教科書の中では重要視されていません。北前船に関する学術書はあっても、気軽に知ることのできる入門書のような本がなかったのです。そこで、本がないのであれば自分で作ろうと考えたんです」

鐙さんは、かつて北前船を通じて交流していた各地域と人々を、現代で再び結び付けたいと考えています。例えば、京都と秋田のような遠方の土地が、北前船によって実はとても親密に結びついていたという小さな驚き。海に囲まれて各地に川が流れる島国だからこその、そんな面白い繋がりを現代で再現したいと願っているのです。

【本づくりへの情熱】

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出典『北前船~寄港地と交易の物語~』(無明舎出版)

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現在、鐙さんは2冊の本の制作に取り組んでいます。 それは会津五街道についての本と、イザベラ・バードが旅したルートを記したガイドブック。 会津五街道とは、1649年に幕府の街道調査命令により、会津藩が報告した白河街道、南山通り、越後街道、二本松街道、米沢街道のこと。イザベラ・バードは『日本奥地紀行』や『バード日本紀行』の著作で有名な英国の女性紀行作家です。

これらの調査に対して、鐙さんは並々ならぬ情熱を注いでいます。
特にイザベラ・バードの取材について、鐙さんはとても嬉しそうに話します。

「イザベラ・バードの足跡を追う取材中に、200~300の謎が出てきました。『おそらくここにも訪れたはずなのに、彼女の紀行に全く記載がないのは何故?』『バードは何故このルートを選んだのだろうか?』ガイドブックではそれらの謎についてはあまり触れないようにしていますが、とても面白い内容ですので、謎ときに挑戦する本もつくって同時出版する予定です」

鐙さんはいつも、新たな出会いを積極的に求めています。そしてその新たな出会いから、新たな夢を紡ぎだしているのです。

そんな姿から、自然に、しかし常に前進することの楽しさを垣間見ることができます。近年、本の売れ行きが以前よりも落ちていると言われていますが、鐙さんの勤める無明舎出版も例外ではありません。「一口に『本』と言っても、紙媒体の出版物だけではなくなりました。発達したwebでは、従来の『本』ではできなかった見せ方ができますし」鐙さんはそのように話します。

「本や新聞という紙媒体の出版において、今後は体力のある大手出版社だけしか出版の専門会社としては生き残ることができないかも知れません。
本では実現できないアイディアと可能性を持ったwebの力と、多くの木を切って作った紙を使用するという現実を鑑みると、今はまだ叫ばれていませんが、いずれ森林伐採との関連性に対して反発が起こってしまうだろうと思います。出版社は、これまでのように紙を使った本を作っていくだけでは先がないでしょう。これは大手も一緒で、他の方法を模索しています。しかし、無明舎には30年以上かけて集めた東北地方や街道に関する資料があります。ことこの分野における豊富な文献や写真資料、人をつなぐ強いネットワークは、他のどの会社にも、どんな自治体にも負けないという自信もあります。これらを上手く用いることで、また新しい出版の形を模索し続けることで、これからも広く社会に受け入れられる本作りをしていきたいと強く願っています」

東北を愛し、旧街道を歩き、出会いを楽しみ、繋がりを重んじ、広く深い興味を持つ。過去を知ることで現代の認識を深め、未来への展望へと結びつける、そんな歴史学者のような視野を持つ鐙さん。これからも時代の変化に対応しつつ、しかし大切な心を決して失わない、素敵な本を作り続けてくれるのがとても楽しみです。

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