
昭和時代に多くの人々の心を温めていた昔ばなし。あれから長い時が経た現在、そんな昔ばなしが疲れた心を和ませる『幸せな記憶』となっている方も少なくないでしょう。民話の里・遠野において、自慢の歌声と共に昔ばなしの語り部を担う夢我人がいます。

ワキさんは、大正10年(1921)に岩手県上閉伊郡小友村(現遠野市小友町)氷口に生まれました。
姉が生まれて何年も過ぎてから生まれたワキさんは、両親からも姉からもとても可愛がられて育ちました。
しかし不幸にもワキさんが物心つく前に母親が急逝してしまいます。
また、母親の死後間もなくして姉も嫁に行くことが決まり、氷口の家には父親と幼いワキさんだけが残りました。
それからは父親が全てを担うことになりました。
仕事も家事も一手に引き受けた父親でしたが、決してワキさんには弱みを見せることなく、常に優しい父親であり続けてくれました。
そんな父親が、ワキさんが寝付けない夜に、ミルクや子守唄の代わりに話したのが昔ばなしだったのです。
父親は夜だけでなく、藁仕事の合間など事あるごとに昔ばなしを話してくれました。
抑揚をつけて感情を込めて話してくれる父親の昔ばなしは、ワキさんを想像世界へと誘いました。
挿絵がないことが逆に想像力を果てしなく広げたのです。
遠野にまつわる不思議な話。感動的な話。楽しい話。恐ろしい話。
ひとつひとつの話はワキさんの心の中で躍動し、少しずつ形を成していきました。
ワキさんにとっては、昔ばなしは子守唄であり同時に教育でもあったのです。
しかし、ワキさんの成長と共に、父親が昔ばなしをする機会は少なくなっていきました。
それを淋しく思いながらも、心の中ではいつも父親の昔ばなしを楽しみ、深く胸に刻み込んでいました。
やがて結婚が決まり、家事と育児に追われたワキさんは、少しずつ昔ばなしとは距離を置く生活を送るようになっていきます。
次の夢我人は誰でしょう?