
近年、世界的なシングルモルトブームを迎えて従来の消費国だけでなくBRICsにおいてもその消費量が著しく上昇しています。そんなシングルモルトの存在が認識されていなかった時代に逸早くその魅力を見出し、人生を賭して探求した夢我人がいます。
初めて本場のシングルモルトを飲んだ瞬間、土屋さんが劇的にシングルモルトの魅力の虜になったかというと実はそうではありませんでした。
この時の印象は、『何だか変わった酒だなぁ…』という淡白なものだったのです。
しかしながら、多くのパブを歩く中で土屋さんはシングルモルトの種類とその個性の多様性に驚きを隠すことができませんでした。
劇的とは言えないまでも、何か心に引っかかるものを感じながら、土屋さんはスコットランドを後にしました。

帰り際に、観光局からお土産として渡されたのは『ボウモア12年』というウィスキーでした。
カモメを描写したラベルが印象的なこのスコッチは、大変な個性のあるシングルモルトとして今では日本でも定着した人気を誇っています。
(※現在のボウモアのラベルはデザインが変更されたため、カモメは描写されていません)
ところで、ロンドンのパブといえば、スコッチウィスキーの本場のような印象があるかも知れませんが、実際はそんなことはありません。
ごく稀にスコッチウィスキーを置いているパブもありますが、一般的なウィスキーがインテリア的な飾りとして置いてあるくらいのものです。
イングランドの人々が飲むのは総じてエールビール。彼らがスコットランドの強烈なお酒を飲むことはほとんどありません。
そのためシングルモルトの認知度はとても低く、ロンドンに戻った土屋さんが同僚のイギリス人たちにそのスコッチを一緒に飲もうと誘ってみても、『そんなの絶対に飲まないよ!』と全員が口を揃え、さらには『そんなもの飲んだら病気になるぞ』という冗談まで飛び交うほどでした。
そのように、ロンドンですらウィスキーを置いている店がほとんどない時代に、図らずも土屋さんは本場で様々なシングルモルトを経験することができたのです。
そしてお土産にもらったボウモア12年。
イギリス人の同僚たちに笑われたこのお酒を、土屋さんは自宅に持ち帰ってひとりで飲むことにしました。
そして毎晩少しずつボウモアを飲んでいるうちに、その美味しさをぼんやりと理解するようになり、同時に何となしにクセになっていきました。